#193 Key Persons Insights - Webサイトとマネジメントの視点 - Vol.2【後編】

熟練クリエイターが本音で語る、プロを動かす『良識』と『情熱』
Web制作に「料金表」はない。
AI時代に『ポンコツなサイト』を作らないための、プロの見極め方
はじめに:競合サイトのマネは「客観視」じゃない
聞き手(ハビタス): 前回は「素材」の話でしたが、今回はもう少し踏み込んで「プロの使い方」について聞かせてください。橋本さんはよく「クリエイティブへの投資は、客観視を買うことだ」と仰いますね 。
橋本氏: ええ、ちょっとえらっそーなこと言ってますけど…(笑)。
例えば、証明写真って自分で撮るより、写真館でプロに撮ってもらった方が「いい顔」するじゃないですか。あれってカメラマンが「客観的に見ていい角度」を知ってるからなんですよね 。 企業も同じで、中の人だけで原稿を書くと、どうしても詳しい技術仕様とかプレスリリースみたいな、「自分たちが言いたいこと」ばかり詰め込んじゃう。一般のユーザーには「で、何ができるの?」って伝わらないことが多いんです 。
聞き手(ハビタス): ありがちですね。リニューアルの相談でも、ターゲット不在のことが多いです。
橋本氏: よくダメだなぁと思うのが、リニューアルのイメージを聞いたときに「同業他社のサイト」を持ってくるパターン。「A社みたいにして」って言うけど、それマネしたらただの二番煎じでしょう(笑)。 本当の客観視っていうのは、「御社の強みなら、業界は違うけど、この見せ方が参考になりますよ」って提案できること。僕らにお金を払う意味って、デザイン作業賃というより、この「外からの視点」を買うことだと思うんです。
§1:制作費は「担当者の質」で変わります
聞き手(ハビタス): 多くの経営者が気にすることですが、ズバリ聞きます。Web制作に「料金表」ってあるんですか?
橋本氏: ないです。 (きっぱり)
もちろん、「何ページならいくら」みたいな最低限の目安はありますけど、最終的な金額は「担当者の方の力量」で変わりますね。
聞き手(ハビタス): 発注側の担当者で値段が変わるんですか?
橋本氏: 変わりますよ。だって、制作費の大部分は「工数(時間)」ですから 。 話が早くて、社内の意見をまとめてくれる優秀な担当者なら、手戻りが少ないから工数が減る。だから安くできます。 逆に、話が二転三転したり、「社長がこう言ったから全部直しで」みたいなことが続くと、工数が膨れ上がるから、その分見積もりも高くせざるを得ないんです 。
聞き手(ハビタス): 「面倒くさい客税」みたいなものがあるわけですね(笑)。
橋本氏: まあ、リスクヘッジなんですけどね。だから、安くいいものを作りたいなら、制作会社を値切るよりも「話の通じる優秀な担当者を立てる」。これが一番のコストダウン術だと思うんです 。

§2:プロを見抜くなら「まずはLPを1本」
聞き手(ハビタス): とはいえ、発注側もどの会社(人)が良いか分からないですよね。コンペで安さだけで選んで失敗するケースも多いです。本物のプロを見抜くコツはありますか?
橋本氏: よくある方法かもしれないんですけど、いきなり数百万のリニューアルを頼むんじゃなくて、「ランディングページ(LP)を1本、2社くらいに発注してみる」のがいいと思います 。
聞き手(ハビタス): テスト発注、お試し期間を作るわけですね。
橋本氏: そうです。小さな案件を頼むと、その会社が「どこまで深くビジネスを考えてくれたか」「ただ言われた通りに作る会社か」が丸わかりになりますから 。 結婚する前に同棲してみるみたいなもんで(笑)、相性が合うかどうかも分かる。その段階で「あ、これ違うな」と思ったら、本番のリニューアルは頼まなければいいんです。そのための数万円〜数十万円は、失敗した時の損害に比べれば安い投資だと思いますよ。
§3:説明が必要なUIは「ポンコツ」である
聞き手(ハビタス): 最後に、AI時代のクリエイティブについて。ノーコードのSaaSなどを利用して、誰でも簡単にサイトが作れる時代に、プロの価値はどこにあるんでしょう?
橋本氏: 僕は「説明文がないと分からないUI(操作画面)はポンコツ」だと思ってるんです 。
聞き手(ハビタス): ポンコツ(笑)。
橋本氏: だってそう思いませんか? 触ってみて、直感的に「あ、こうか!」って分かった瞬間、人ってちょっと感動するんですよ。「アハ体験」みたいなもので、その瞬間に記憶に残る 。 AIは情報を綺麗に並べるのは得意だけど、この「分かった瞬間の感動」とか、あえて隠して発見させるような「人間臭い仕掛け」を作るのは、まだ人間にしかできない 。
聞き手(ハビタス): 哲学でいう「タウマゼイン(驚き)」ですね 。(笑)
橋本氏: そうそう…ってそうなんですか?(笑)機能的なサイトならAIでいいけど、お客さんに「なんかこの会社好きだな」「信頼できるな」って思わせたいなら、やっぱりそこには人の手と、経験値が必要なんじゃないかなと思いますね 。
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橋本弘(はしもとひろし)
大学卒業後は専攻していた建築をあきらめ、フリーターからスタート。DTPデザイナーを経てWebの世界へ。30年近くデザイナー・ディレクターとして活動中。10年前からフリーランス。
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編集後記:ハビタスより
「料金表はない」「説明が必要なUIはポンコツ」。橋本氏の言葉は、現場で戦い続けてきた職人ならではのリアリティと、ビジネスの本質を突く鋭さがあります。
AIで平均点は取れる時代だからこそ、ビジネスを突き抜けさせるのは、こうした「人間的な仕掛け」と「プロの戦略」です。ハビタスは、御社のビジネスを客観視し、記憶に残るサイトを共に創り上げるパートナーです。まずは小さな相談から、始めてみませんか?
