#241 第2回「御社の強みは何ですか?」なんていう、退屈な質問には答えたくない。 -「〜ではない(Not)」の否定の中に本質が宿る-
デジタルが苦手な中小企業のための
「負けない」Web戦略論
ー少し哲学的に考えてみたAIのお話ー
第2回「御社の強みは何ですか?」なんていう、退屈な質問には答えなくていい。
-「〜ではない(Not)」の否定の中に本質が宿る-
経営コンサルタントや、Webマーケティングの専門家がやってくると、
必ずと言っていいほど聞かれる質問があります。
「社長、御社の強み(USP)は何ですか?」
「競合他社との差別化ポイントを、3つ挙げてください」
はぁ…(ため息)
私はこの手の質問をされると、まともに答える気力がなくなります。
なぜなら、彼らが求めている答えがあまりにも「画一的」だとわかっているからです。
「高い技術力」「迅速な対応」「顧客への親身なサポート」。
彼ら自身がわかる答えしか認めないのも承知済み。(またこの言語レベルが低いんだ…)
そんな、どこかで聞いたような綺麗な言葉を並べ立てて、それで「差別化」だなんてねぇ…無理があるでしょ。(そうじゃあない人もいるんですよ。誤解なきよう)
そもそも、本気で商売をしている人間にとって、「強み」なんてものは、そう簡単に言葉にできるものではありませんよね。言えますか?無理矢理言わされている感じしません?
「技術力」と言った瞬間に、「いや、うちより凄いところなんてゴマンとあるよ」という内なるツッコミ(含羞)が発動してしまう。そしてちょっと落ち込んだりする。だから、また口ごもる。(もちろんそれがマトモな反応です)
「差別化ポイント」なんて簡潔に答えられるか!と言いたくなる。
それを話せば一日かかるわ!と。一日中、聞く気があるか?
(短くわかりやすくないといけないので、長々と話し出せば、途中で遮られることも織り込み済み)
エレベーターピッチとか言うんですか?詳しくないですけど。
簡潔にエレベータに乗っているくらいの時間で会社の説明をしろとかいうんですよね。
できるかぁ!そんなこと。
そんな何十階もある高層ビジネスセンターに会社があるわけでもない。
せいぜい5階くらいです。ものの10秒ですよ。(テめえ!コノヤロウ!バカにすんな)
とかく、簡潔に、効果的に、わかりやすく、伝えるのが鉄則ですと言われるわけです。
はいはい。そうでしょうね。たぶん、その通りです。それがビジネス!ですよね。
でもね、そんな風に答えられない真面目な皆さんに朗報?があるかも。
別に無理矢理「強み」なんて、探さなくていいかも。
その代わり、徹底的に「何ではないか(Not)」を語ればいい。
昔、ある彫刻家が言っていたそうです。
「どうやってそのライオン像を彫ったのか?」と聞かれて、彼はこう答えたそうです。
「石の中から、ライオンではない部分を取り除いただけだ」
夏目漱石の『夢十夜』の第何話か忘れましたが、運慶快慶の話があります。そこにも似たような話が出てきます。
パリのロダン美術館に行ったときにみたロダンの彫刻。
大きな大理石から人の形がぼんやりと浮かび上がっている。
これ未完成かな?と頭をよぎると同時に、逆にその大理石の中にあった人の形をロダンが浮かび上がらせたのではないか?と思った記憶があります。
それが、ブランディングの本質であり、表現すること、伝えることの基本なのではないか?と思うわけです。
私たちのような、定義しづらい中小企業の輪郭は、「何であるか(肯定)」ではなく、「何ではないか(否定)」を積み重ねた先にしか浮かび上がってこない。
大手の競合他社のように短くひとこと宣言(説明)だけすればいいわけではないのです。
彼らはそれで通じちゃうし、圧倒的に言い切れるパワーがあるわけです。
でもわたしたちは、その宣言以外のところで商売しているわけですから。
「うちはWeb制作会社だ。だが、 ただ言われた通りのコードを書く下請け業者ではない」
「うちは工務店だ。だが、 効率優先で新建材ばかり使うメーカーとは違う」
「コンサルタントを名乗っている。だが、 現場を知らないまま空論を振りかざす連中とは一緒にしないでくれ」
この「〜ではない」「〜とも違う」という否定の連鎖。
あるフランスの哲学者が語っていた、「ni... ni...(〜でもなく、〜でもない)」の繰り返し。
そうやって余計なものを削ぎ落として、削ぎ落として、最後に残った「残りカス」のようなもの。
実はそれが彫刻家のいうところのライオン(=作品)のことです。
言葉にするのも難しい、その「正体不明のなにか」こそが、あなたの会社(そしてあなた自身)の本当の価値(本質)でしょうし、そこを売りにして仕事をしているのではないですか?
なにもはっきりと言葉で断言できるような肯定的な言い回しが全てではないはずです。

さて、ここで少し厄介な話をします。今、流行りのAI(人工知能)についてです。
多くの経営者が「AIなんて自分には関係ない」「胡散臭い」と思っているかもしれません。あるいは心の底で「でもなぁ…遅れちゃマズイのかなぁ」と。
そうですよね。こういうなんだかもやーっとした、憎悪と興味と焦りが入り交じったその気持ち。よくわかります。
(うっかり、わかったふりとかしちゃったりしますよね。素直にその気持ちを受け止められない自分…ああ恥ずかしい…自己嫌悪)
しかし、敵を知り己を知れば…なんとやら、というやつで、AIの「癖」を知っておくことは損ではないでしょう。なんだか巷では話題にはなっているしね。
まあ、AIとは何か?なんて大袈裟な話をするつもりもなければ、そんなことを話せるほどの頭もないし、詳しくもないんですけど、少しだけ考えてみました。だからツッコまれてもしょうがない。即座にごめんなさいといいます。
というわけで、私の思い込みも含んだ仮説ですが、現在のAIは「存在の類比(analogia entis)」の達人です。
「存在の類比」なんて小難しい言葉書きましたけど、類推していく能力(アナロジー)のことです。
膨大なデータの中から、「AとBは似ているから、たぶんCもこうだろう」と推測して、空白を埋めるのが猛烈に上手い。しかもそのスピードたるや驚愕すべき速さです。
いわば「平均的な正解(グランドトゥルース)」を出す天才です。いや、超天才。人知を超える頭脳!
だから、もしあなたがWebサイトに「私たちは親切な工務店です」とだけ書いたとしましょう。
するとAIは、世の中にある「一般的な工務店」のイメージ(類比)で、勝手に御社のことを解釈します。
「ああ、よくあるアレね」と。(どこも親切だと言いますからね)
その瞬間、御社の個性は「平均」の海に埋没して死んでしまう。徐々にではないです。瞬殺です。
一方で、AIには「できない」とされていることがあります。
よく巷のオジサンたちがしたり顔で「AIには『本質』を見抜く直観力がない!」なんて言っていますよね。データや理屈を超えて、「これだ!」と対象の魂をガシッと掴んでしまう力。あの「残りカス」の価値を見抜く力は、人間にしかないんだ、と。(哲学の専門用語で「本質直観」なんて言ったりします。世の哲学者の方申し訳ない)
でもね、私はこれすらもちょっと疑っているんです。
「え? 人間にだって、そんな本質なんて見えてなくない?」と。
実際のところ、私たち人間だって、相手の「本質」なんてそう簡単にはわかっちゃいません。わかったつもりになっているだけで、間違うことだらけです。
ただ、人間とAIには、決定的な違いが一つだけあります。
それは、ヒトは「ためらう(口ごもる)」ことができる、ということです。
「うちの会社の強みは……いや、待てよ。単純に技術力って言っちゃうと嘘になるな」
「これ、なんか違うな。言葉にすると安っぽくなるな」
この「〜ではない」「違う」という違和感。本質が何であるかはズバッと言い当てられないけれど、「これじゃないことだけは確かだ」と立ち止まることができる。これが人間の強みです。
でも、AIにはこの「ためらい(含羞)」がありません。
彼らは空白があると、過去のデータから最も「それっぽい平均値」を引っ張ってきて、1秒で穴埋めしてしまいます。「はい、あなたは『親切な工務店』ですね!」と、いけしゃーしゃーと断言してのける。
そう、いつも断言します。
だからこそ、私たちはAIに対して、もっとへそ曲がりになる必要があります。
そして「偏屈者」として付き合う。
AIが勝手に「一般的な正解」で空白を埋めようとする前に、しつこいくらいに「Not(違う、そうじゃない)」を突きつけるのです。
「AIさん、あたしたちを普通の枠にはめないで。われわれはこれでもないし、あれでもない」
そうやって否定の杭(くい)を打ち込んでいくことで、初めてAIは「おや、この会社は既存のパターンに当てはまらないぞ?」と認識し始めます。ホントかな?と思ったあなた!ホントです(いや、たぶん…と、躊躇う)。
皮肉なことに、AIという「平均化マシン」に対抗し、自分たちの輪郭を守るための唯一の武器は、あの口ごもってしまうほどの「否定の言葉」たちなのです。
無理矢理言わされていたポジティブな美辞麗句や説明的な表現、誰もがわかるようにした短い説明、は捨てましょう。
そもそもそんなの言えないし、そう言わされることが嫌だったわけですからね。
代わりに、御社の頑固な「No」をリストアップする。「わたしたちは〜ではありません」です。
実はそれこそが、AI時代における最強の自己紹介になるのです。
じゃあ、具体的にどうやってその「No」を、あの融通の利かないコンピュータ(AIマシン)に伝えればいいのか?
次回は、そのための「翻訳技術」についてお話しします。
ご安心ください。コードを書けとは言いませんから。
(第2回 了)
