#233 SEOからGEOへ?…それともLLMO。マーケティング界隈の「言葉の軽さ」と、ささやかな抵抗について
SEOからGEOへ?…それともLLMO。マーケティング界隈の「言葉の軽さ」と、ささやかな抵抗について
マーケティングは、言葉を「消費」したがる
SEO(検索エンジン最適化)という言葉が定着して久しいですが、昨今、マーケティング界隈の一部では、どうやらまた新しい「3文字のアルファベット」が囁かれ始めています。
GEO(Generative Engine Optimization)。
そもそも、この「3文字のアルファベット」というやつは、不思議な魔力を持っています。 FBI(連邦捜査局)やCEO(最高経営責任者)、あるいはIBMのように、元々の意味を知って「なるほど、そういう組織構造なのか」と納得し、社会に定着するものもあれば、泡のように消えていくものもあります。
私たち技術に関わる者やビジネスマンにとって、古くからある用語の背景を調べるのは知的な楽しみの一つです。しかし、マーケティング業界が次々と生み出す「新語」には、どうも食指が動きません。ちょっと苦手と言えばいいでしょうか……。
SGE(Search Generative Experience)と言われたかと思えば、今度はGEO。 多くの読者の方にとっては、「GEO? 地理学(Geography)のこと? それともあのリユースショップ?」といった反応が正常でしょう。まだ世の中で市民権を得ていない、業界内の一部が盛り上がっている専門用語に過ぎません。
私がここで書きたいのは、この新しい用語の解説ではありません。 新しい概念が登場するたびに、即座にそれをキャッチーな略語に変換し、トレンドとして消費しようとする「マーケティング的な手つき」——つまり、必死になってマーケットのヘゲモニー(主導権)を取ろうとすることへの、違和感についてです。
「企業のDNA」という言葉のいかがわしさ
言葉が、本来の意味を離れて「雰囲気」で消費されていく。この現象に、居心地の悪さを感じているのは私だけではないと思いたいのですが、どうでしょう?
分かりやすい例で言えば、Webサイト全体を指して呼ぶ「ホームページ」という誤用。 これはもう日本特有のガラパゴス現象として定着してしまい、私たち専門家も(野暮にならないよう)お客様に合わせて使っています。
インターネットがビジネスでもプライベートでも利用され始めた頃、ブラウザを立ち上げたときに最初に表示されるページのことが「ホームページ(Home Page)」でした。 当時はおそらく、ほとんどの人がこの正しい意味を知っていたはずなんです。もちろん、今のように日本中に知られていたものではありませんでしたが。
ところがなぜか、日本ではWebサイト全体のことを「ホームページ」と呼ぶ誤用が完全に定着してしまいました。 今では私たちもそれに合わせますが、心のどこかに小さな棘が刺さったままです。「正確ではない言葉を使っている」という、技術者としての居心地の悪さです。
しかし、もっと根深い問題もあります。 例えば、ビジネス書やプレゼンで頻出する「企業のDNA」という言葉。
DNAとは本来、二重らせん構造を持つ物質であり、ただの化学的な情報の運び手です。そこに意思はありません。しかしビジネスの文脈では、「利己的な遺伝子」というベストセラー本の比喩が独り歩きし、あたかも企業に人格や運命があるかのように語られます。
あるいは、フロイトの「無意識」。本来は非常に複雑で統御しがたい精神分析の概念ですが、日常会話では単なる「うっかり」や「癖」程度の意味で軽く使われてしまう。
難しい概念を分かりやすくするのは重要だと思うのです。
しかし、マーケティング的な意図—つまり「それを言ったほうが売れるから」「賢く見えるから」という理由で—言葉が本来持っている深みや定義をないがしろにし、パッケージ化して「商売」にする態度には、どうしても抵抗を感じてしまうのです。 (だから私は、常に元の意味は何であったか? と気になって調べてしまうのですが)
そして、最近現れた「GEO(生成エンジン最適化)」という言葉にも、それと同じ種類の「言葉の軽さ」を感じずにはいられません。
「言葉が概念を生み出す」というのは、その通りなのです。 しかし、その意図がマーケティング的な都合で別のものに変えられてしまうというのは、あまりに元の誠実で正確な意味を大切にしていない気がしてしまうのです。言葉に対する敬意と真摯さがない(一部政治家にも言いたいようなことですけど…)。

「攻略」したい人たちと、「対話」したい私たち
もちろん、誤解のないように言っておくと、「GEO」という言葉自体は間違いではありません。プリンストン大学の研究チームなどが提唱している概念でもあり、技術的な用語として存在しているようです。
しかし、私たちと言葉を「商売道具」にするマーケッターとでは、この言葉の捉え方に、微差にして決定的な違いがあるのです。
GEO(Generative Engine Optimization)は、その名の通り「エンジン(検索システム)」を向いています。 彼らの関心事は「どうすればAI検索の回答部分に、自社の名前が引用されるか?」です。だから、言葉を「キーワード」や「フック」として扱います。AIに拾われやすいように、言葉を配置する。それはまさしくSEOの延長線上にある発想です。
一方で、私たちが使うLLMO(Large Language Model Optimization)は、「モデル(脳の構造)」を向いています。 私たちの関心事は「どう記述すれば、AIという巨大な知能が、私たちの概念を正しく理解してくれるか?」です。言葉を単なる記号ではなく、「論理(ロジック)」として扱います。
「引用されたい(目立ちたい)」のか、「理解されたい(伝わりたい)」のか。
マーケッターたちが「GEO」という言葉を好むのは、それが手っ取り早い「露出のテクニック」だからでしょう。 「これからはSEOではなくGEO対策です! 乗り遅れますよ!」と旗を振れば、新しい予算が動く。そうやって業界は回っています。
そこには、言葉そのものの意味や構造を大切にするというよりも、アルゴリズムの隙間を突いて成果を出そうとする、ある種の「軽さ」を感じてしまうのです。
しかし、私たちが向き合っている生成AI(LLM)は、検索エンジンのような単純なランキングシステムではありません。 確率論と文脈理解によって成り立つ、より複雑で、ある種人間的な「論理モデル(Model)」です。機械的なエンジンの調整というよりは、知性との対話に近い構造を持っています。
だからこそ、私たちは流行りのGEOではなく、あえて「LLMO(Large Language Model Optimization)」という言葉を使っています。
もちろん、伝わらなければ困ってしまうので、「ホームページ」と同様、それが普及してしまえば使わざるを得ないでしょう。なんとなく心に棘を感じながら……。
言葉の選び方は、その人の「美意識」を表す
そんなわけで、すでに現時点でも、マーケティング的には「GEO」を使ったほうが正解なのでしょう。 検索ボリュームも増えていくはずですし、「GEO対策の会社です」と名乗ったほうが、分かりやすく仕事が取れるかもしれません。(現に私たちも、見つけてもらうためにサイト内にはGEOという言葉を書いていたりします)
それでも私たちが「LLMO」を掲げるのは、意地や頑固さというよりは、もっとシンプルな「美意識」の問題です。
AIを「攻略して利益を得るための機械(Engine)」と見るか、「構造を理解し、正しく情報を伝えるべき相手(Model)」と見るか。
流行りのバズワードに乗っかって、本質を薄めてしまうのは、なんだかスマートじゃない。 「GEO対策、やります」と言えば売れるかもしれないけれど、その言葉の使い方は、私たちのスタイル(流儀)には合わない。
世の中が「GEO」一色になり、マーケッターたちが新しい攻略法を売り歩くようになったとしても、私たちはその喧騒から少し離れた場所で、「LLMO」という看板を掲げていたいと(今のところ)思います。 (そんな抵抗がいつまで続くかわかりませんが……)
「なんか、あのGEOって言葉、使うのカッコ悪くない?」
そんなふうに、言葉の向こう側にある本質や、マーケティングの空騒ぎに対する違和感を共有できる方となら、きっと本質的で面白い仕事ができる。私たちはそう思っています。
