#173 Key Persons Insights - Webサイトとマネジメントの視点 - Vol.1【前編】

ウェブサイトは「費用」ではない。「経営戦略」そのものだ
〜元VC・現役外資IT幹部D.H氏が語る、小さな会社がウェブに投資すべき理由〜
はじめに
ハビタスが新たにスタートする対談企画「Key Persons' Insights」。ウェブサイトやデジタル活用を巡る、中小企業の根深い課題について、ビジネスの最前線を知る「キーパーソン」に本音を語っていただきます。
第一回目のゲストは、外資系IT企業にて要職を務められ、過去には大手ベンチャーキャピタルでの投資経験を持つ、Daisuke Hammett 氏(仮名:以下D.H氏)です。
D.Hさんは、ご多忙の中、所属企業の規定(コンプライアンス上の配慮)により、ご氏名と顔写真を伏せてのご登場となりましたが、その鋭い視点は、まさに「ウェブサイトは経営戦略そのもの」であることを示しています。投資家・経営者としての視点を持つD.Hさんに、中小企業のウェブサイトが抱える現状と、あるべき姿について伺います。

ウェブサイトは「経営を考えること」とイコールである
聞き手(ハビタス): 本日はありがとうございます。
早速ですが、D.Hさんが考える「ウェブサイト」とは、企業経営においてどのような位置づけなのでしょうか?
D.H氏: 結論から言えば、ウェブサイトを考えることは、「経営を考えること」と全く同じです。
ウェブサイトは、単なるカタログではありません。誰に対して、どんな価値を提供し、どうビジネスを成長させていくのか。その企業のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)やビジネスモデル、そしてマーケティング戦略の全てが凝縮された場所です。
私たちのような外部の人間、例えば投資家は、ウェブサイトを見ればその企業が本質的に何を考えているのか、将来の成長意欲があるのかどうか、すぐに分かってしまいます。
聞き手(ハビタス): 企業哲学そのもの、ということですね。しかし、中小企業の経営者からは、「過去に作ったウェブサイトを維持しているが効果を実感できていない」「投資対効果を感じない」という声が非常に多いのが現状です。
D.H氏: その認識は、ウェブサイトが日本の経済構造の中で進化を遂げてきた過程と関係があるかもしれません。
20数年前のウェブ黎明期から、ウェブは形を変えてきました。当時はウェブサイトがあれば先進的でしたが、今はそうではない。特に近年は、Googleをはじめとする巨大プラットフォームが、ウェブサイトの情報を読み込み、AIが最適解を回答する新しい検索の仕組みが台頭しています。
つまり、ウェブサイトは単に情報が載っていれば良い時代は終わったということです。ウェブサイトを通じて、ユーザーに「選ばれる理由」を明確に伝え、AIにも正しく理解されるように設計しなければ、ビジネスに貢献しなくなってしまったのです。
コンテンツ戦略なきウェブサイトは「誰も見ないカタログ」
聞き手(ハビタス): 「選ばれる理由」を明確に伝えることが重要、というお話ですね。それが、私たちが常に強調する「コンテンツ戦略」に繋がると思うのですが、D.Hさんから見て、多くの中小企業がこのコンテンツ戦略を考慮できていないのはなぜでしょうか?
D.H氏: 多くの企業は、「うちには伝えるべきコンテンツがある」と考えています。それは間違っていません。企業にはノウハウや製品情報など、豊富な情報があります。
しかし、そのコンテンツを「ウェブサイトの中で、誰に、どういう順番で、きちっと伝わるように考えないといけない」という視点が欠けています。今あるものをそのまま出しておけば、皆に理解してもらえるかというと、そうではない。
聞き手(ハビタス): 当たり前のことを言っているようで、この「伝えるための戦略」を外してしまうと、何のためにウェブサイトを運営しているのか分からなくなってしまう。
D.H氏: 全くその通りです。そして、現代はモノとサービスがあふれかえり、消費者は「選択すること自体が難しい」というジレンマに遭遇しています。
だからこそ、コンテンツ戦略を通じて、企業側が「あなたたちのこの課題は、うちがこういうコンテンツ(情報)で解決できますよ」と手を差し伸べ、選択を助けてあげる必要があるんです。ウェブサイトは、そのための最もコストパフォーマンスの高いマーケティング手段です。
Vol.1(前編)まとめ:ウェブサイトへの「投資」と「姿勢」
聞き手(ハビタス): ありがとうございます。
ウェブサイトが、いかに企業の成長と密接に関わる戦略的投資であるかがよく分かりました。
D.H氏: ウェブサイトは、会社の未来を左右する重要な投資です。投資対効果を感じられず、活用方法に疑問を持つ経営者は多いと思いますが、まずは「ウェブサイトの価値を再確認する」という姿勢が重要です。
(第2回【後編】では、ウェブサイトへの具体的な投資配分の目安や、制作における要件定義の重要性など、より実践的なテーマについて深く伺います。)

