#307 AI同士の「集客ゲーム」を横目に、中小企業がWebでやるべきこと
先日、作家の平野啓一郎氏がX(旧Twitter)で、非常に興味深いことを呟いていました。
「作者がAIに奪われることより、読者がAIに代替され、人間が読まずに要約だけ受け取る状況の方が深刻だ。『魔の山』を今一番読んでいるのはAIではないか」と。
元・哲学研究者の端くれとしては「さすが作家さん、鋭いところを突くなぁ」と感心してしまったのですが、同時に少し笑ってしまいました。
なぜなら、私たちWeb制作会社が長年「コンテンツの中身より集客だ」と足を引っ張られ続けてきた、あのデジタルマーケティングの最前線では、この「AIだけが熱心に読んでいる」という状況が、すでに大真面目な顔をして「最新の正解」として罷り通っているからです。
最近、海外の最新SEO(検索エンジン最適化)事情などを覗いてみると、こんな手法が声高に推奨されています。
「検索上位の10記事をAIに読み込ませて要約させ、それをベースに新しい記事を自動生成して量産しよう」
ここ10年ほど、デジタルマーケティングの世界では、いかにシステムの裏をかくかという「ハック」に頭を使い、それを効率よくこなすことこそが優秀なビジネスである、という風潮がすっかり定着してしまいました。
しかし、冷静に考えてみてください。この最新手法とやらで作られた記事は、人間は誰も読んでいないし、誰も新しいことを書いていません。ネットの裏側で、ロボットが他のロボットの書いた文章を読み、それをまた別のロボットが要約する。まるでロボット同士で「読書感想文の回し読み」をしているような、ちょっとしたホラーであり、滑稽なコントです。
30年ほどWebの実務をやっていると、いろいろな流行り廃りを見てきましたが、ここまで人間不在のシステムはなかなかお目にかかれません。
では、なぜこんな誰も読まない「ロボットのコタツ記事」の量産に、名だたる大企業が何千万円という予算をつぎ込むのでしょうか?
答えはシンプルです。
大手広告代理店や巨大なデジマ企業にとって、これまで莫大な利益を生んできた「集客ゲーム」というビジネスモデルを、なんとしても終わらせるわけにはいかないからです。当然と言えば当然ですけど。
AIの登場で本来なら崩壊しかけている古いゲームを、「AIをフル活用した最強のSEOシステム」などという新しいパッケージで包み直し、なんとか延命させようとしている。そして大企業の担当者もまた、「大手代理店の最新AI手法を導入した」という万が一の時の立派な言い訳(保険)を必要としている。双方の利害が一致した結果、この不毛な回し読みゲームは終わるどころか、さらに強固に回り続けているのです。
問題はここからです。
少し業績が伸びてきた中小企業が、こうした大企業の「メディアごっこ」に憧れ、数百万の予算をかけて同じような真似をしようとしてしまうケースを結構みかけます。
しかし、リアルな商売をして、日々お客さんと向き合っている中小企業にとって、この「終わらない集客ゲーム」は、本当に1ミリも関係のない世界です。
大企業や代理店のマネをして、体温のない、漂白された綺麗なだけの情報を量産する必要はないのではないか?
大企業のマネをしてみたいという気持ちはわからんではないですけど、
むしろ自社のWebサイトの表側に、「ウチは単なる〇〇業者ではない」「こういうスタンスの仕事は引き受けない」と、自分たちの形を削り出していく「Notの連鎖」を残すべきだと思うです。
単純な説明文からはみ出してしまう、そうした白黒つけられないリアルな手触りこそが「グレーのグラデーション」となり、その企業だけの圧倒的な魅力になります。唯一無二ですよね。
一方で、これからのAI時代の検索システム(LLMOなどと呼ばれます)は、ネット上の共通認識を探りながら回答を作る、とても慎重なシステムです。
とはいえ、彼らに自社の正しい姿(Fact)を読み取ってもらうために、何百万円も払って特殊な魔法やハックを使う必要はありません。
それは例えるなら「役所への登記」のようなものです。
Webサイトの裏側で「ここは会社概要です」「ここは独自のサービスです」と、AIが理解できる言語(構造化データなど)を使って、ただ淡々と、誠実に整理整頓をしておけばいいのです。
裏側を論理的な「情報設計」で粛々と登記しておくからこそ、表側は自由な表現で、自社の本当の輪郭を描き出すことができる。
大手代理店が必死に回し続けている数千万円の読書感想文ゲームなど、「はいはい、ご苦労さん」と冷ややかに横目で見流す。そして自分たちは、自分たちにしか書けないコンテンツを、淡々と作り続ける。
そんな成熟した態度こそが、これからの時代の中小企業にとって、もっとも賢いスタンスではないでしょうか。
