#337 デジタルマーケティングは今、何をしているのか? :AI時代に無意味化する「集客」の呪縛と、不毛な施策の正体
最近、あるWeb業界のメディアで非常に象徴的な事例を目にしました。「AI検索で自社が出てこない」と焦る老舗のEC事業者に対し、あるデジタルマーケティング会社が提供した「最新のAI対策」のエピソードです。
その業者が何をやったかというと、「ユーザーが検索しそうなプロンプト(質問文)を200パターンほど作り、それを手作業で何度もAIに入力して、自社が引用されるか定点観測する」という、途方もない力技の検証でした。
さらには「AI検索対策(GEO)は、あくまで従来のSEOの延長線上にある」と明言し、最終的な施策の効果については「肌感覚としてAIからの流入が増えてきた」と結ばれていました。
私はこの記事を読んだとき、正直に言って少し哀しい気持ちになりました。(がっくし…)
日々の売上を立てるために必死な事業者と、過去の「キーワード集客(SEO)」の定規を持ったまま、新しいAI空間を無理やり測ろうとしている業者。
双方がAI時代のパラダイムシフトを根本から誤解したまま、不毛なイタチごっこに時間とお金を溶かしているからです。
本質的な構造化データ(裏側の公式仕様書)を持たないまま、表側のテキストだけをいじってAIの機嫌を取ろうとすれば、結果の検証が「肌感覚(運まかせの確率論)」に陥るのは当然の帰結です。
実は、こうした悲喜劇は決して一部の特別な話ではありません。
「最近、Webサイトのアクセスが減っている。デジマ業者に相談したら、新しいAI対策を提案されたのだが……」
私たちの元にも、経営者の方からこんなご相談を受けることが増えました。
生成AIによる「ゼロクリック検索(検索結果画面だけで答えが完結し、サイトを訪れない現象)」が定着し、企業サイトのアクセス数は世界的に減少傾向にあります。そんな中、デジタルマーケティング会社(旧来のSEO会社)は、このAI時代に一体「何」を提案し、企業から対価を得ようとしているのでしょうか?
実際にどういうことをやっているか、提案しているかは各会社によって違っているかと思うのですが、出ているサービスやその紹介文などから、おそらくこういうことをやっているのだろうというある種の「推測」であることを先にお伝えしておきます。
ただ、これまでの彼らの提供する施策から、概ね外してはいないと思います。
ちょっとイジワルですが、彼らの「手の内」を冷静に観察してみると、そこにはビジネスモデルを維持するための、不毛な延命措置が透けて見えます。
デジマ業界が今、やっている「4つのこと」
現在、彼らが「最先端の手法」として企業に売り込んでいる施策は、概ね以下の4つに分類されそうです。
1. 「GEO(生成エンジン最適化)」という名のフォーマット化
「AIに引用されやすくします」と謳い、記事の構成を結論ファーストにし、専門用語の直後に解説を入れるなど、AIが読みやすい「型」に文章をハメる作業です。要するに、従来のSEO内部施策の焼き直しに過ぎません。GEOと書きましたけど、この名称もまだ揺らいでいますよね。
2. AIと人間のハイブリッドによる「記事の量産」
生成AIを使って記事のベースを高速で作り、人間が少し手を入れて納品する体制。「関連キーワードを網羅して入り口を増やしましょう」という、以前からある周辺記事の量産モデルです。
3. 権威性(E-E-A-T)の「ハック(偽装)」
AIは情報の信頼性を重視するため、記事の末尾に「監修者:〇〇専門家」というプロフィールを貼り付けたり、外部サイトにお金を払って自社を言及(サイテーション)させたりする、ちょっとしたテクニックです。
4. 減少したPVを補填するための「広告運用」への誘導
自然検索のアクセスが減ってしまった事実を埋め合わせるため、「その分はリスティング広告やSNS広告でカバーしましょう」と、広告予算を増額させる提案です。
……AI対策といいつつ、これ、以前からある手法ですよね。
なぜ、これらの施策はAI時代に「有害」すらあるのか?
もちろん、緊急のトラブル解決(水漏れ修理など)や、スマホでの表示速度改善といった一部の領域では、彼らの技術は有効です。むしろ、キーワードの検索時代においては、かなり(細かいところまで)練られた施策だとは思います。
しかし、BtoB企業や専門サービスにおいて、彼らの施策は意味がないとは言いませんが、AI検索においては「害」にすらなり得ると考えています。
理由は極めて構造的です。デジマ業者が「記事の量産」をやめられないのは、「毎月納品するモノ(作業)がなければ、月額の継続フィーを請求できないから」です。 しかし、アクセス稼ぎのために自社の本業とは少しズレた「〇〇の選び方」といった薄い周辺記事をサイトに溢れさせると、どうなるか。AIはサイト全体を読み込んだ結果、「結局、この会社は何を専門とする会社なんだ?」と混乱します。
露出を増やそうと手広く記事を書くほど、自社の「専門性の輪郭」がボヤけ、AIの事実誤認(ハルシネーション)を引き起こす最大の元凶になっているのです。
さらに困ったことに、SEOを真面目に頑張ってきた企業ほど、今、AIから「特徴のないノイズの塊」として扱われるという皮肉な逆転現象が起きていそうです。
最大の誤解:「Webサイトは集客ツールである」という思い込み
なぜ、企業はこんな不毛な施策にお金を払い続けてしまうのでしょうか。
それは、誰かが意図的に仕組んだわけではなく、時代の流れの中でなんとなく定着してしまった「イデオロギー(思い込み)」のせいです。
「Webサイトは、不特定多数を集客するための広告宣伝ツールである」
という大いなる誤解です。
元々、インターネットは軍事・学術目的でスタートし、それが企業に降りてきたとき、ベースとなったのは「チラシ」や「パンフレット」といった広告の概念でした。だからこそ、「集客」が絶対的な正義になったのでしょう。
集客が目的だから、アクセス数(PV)が減ると焦る。そして、検索アルゴリズムの機嫌を取るために、不自然にキーワードを詰め込んだ退屈な説明文を書かされることになりました。
よく考えてみてください。そもそも「キーワードだけで検索する」というのは、非常に不自然な行為です。
人に道を尋ねるとき、いきなり「東京 不動産 中堅企業」と単語だけをぶつけたら、頭がおかしいと思われますよね。まともな答えなんて返ってくるわけがありません。しかし、検索エンジンという機械はそれで答えを返してきたし、私たち人間も「そういうものだ」と学習させられてしまったわけです。(本当に学習した人も多かったはずです。上手にキーワードを選択する方法とかね。こういうキーワードを入れれば思い通りの検索結果が得られますとか…)
だからこそ、不器用だけど熱量のある経営者の言葉や、独自の世界観は「検索意図(キーワード)に合わないポエムだ」と揶揄され、Webサイトから排除されてきました。
しかし、AI検索は「人間本来の質問の仕方(文脈)」に回帰しています。
AIが「答えの要約」を担ってくれる時代に、自社サイトで薄っぺらい百科事典の真似事をする必要など一切ありません。
「一次情報」に対する致命的なズレ
ここで、デジマ業界とLLMO(AI検索対応)における「一次情報」の捉え方の違いに触れておきます。
デジマ業者は「他にはない独自の一次情報(解説記事)をWebサイトに書きましょう」と言います。しかし、表の文章をどれだけ説明的に詳しく書いたところで、AIはそれを「絶対的な一次情報」として認識してくれません。なんとなくぼんやりと見ている程度の理解にしかならないのです。
AIにとっての真の一次情報(Ground Truth)とは、裏側の「構造化データ」として厳密に定義された事実(ファクト)だけです。これからのWebサイトの役割は「集客(大声で呼び込みをすること)」ではありません。AIや世界に対して、自社の事実と「やらないこと(Not)」を厳密に定義し、デジタル空間に「公式登記」することなのです。
「集客」の呪縛から降り、表現を取り戻す
裏側(構造化データなど)でAIに事実と論理さえしっかり手渡しておけば、Webサイトの表側は「検索の顔色」をうかがう必要がなくなります。
つまり、SEOのために押し付けられた退屈な説明文を捨て、再び自由で、情緒的で、人間臭い「表現の場」に戻れるのです。
デジマ業者が持ってくる「AI時代でもアクセス数を落とさないための最新施策」は、彼らのビジネスモデルを守るための都合でしかありません。
「とにかく人を集めなければ」という呪縛から、そろそろ降りる時が来ています。意味のない記事の量産をやめ、自社の本当の価値を整理し、AIに「登記」し直す。それこそが、AI時代における最も誠実で、最も強いWeb戦略なのです。
