#467 “O”の物語(The Story of “O”)
“O”の物語
(The Story of “O”)
―私たちが「最適化(Optimization)」という甘美なハックを捨てた理由
大学院にいた頃から、思っていたことなのですが、仲間うちだけでしか通じない難解な専門用語(ジャーゴン)を並べ立て、さも高尚な真実を語っているかのように人を煙に巻く連中が、わたしは苦手でした。まあ、こっちがその用語を知らなかったということもあるのですが、それはどういう意味?と聞いてもちゃんと答えてくれない。要するにあんまりわかっていなかったのだろうと今では思います。
あれから数十年が経ち、デジタル空間に「AI検索」という大波が押し寄せている今。がっかりするんですけど、似たようなことがWebやマーケティングの業界で繰り返されています。
「これからはGEO(生成エンジン最適化)だ」
「AIO(AI概要最適化)でAI検索をハックせよ」
新しい横文字(だいたいアルファベット3文字)が作られては、デジタルマーケターたちが意気揚々とそれを売り歩く。その様子を見ていると、わたしはかつて世界を揺るがしたフランスの官能小説『O嬢の物語(The Story of O)』を思い出してしまいました。
ちょっとわたしの脳内飛躍も結構なものではあるのですが…。
アルゴリズムという目に見えない絶対的な支配者に対して、自ら進んで首輪をはめ、その機嫌を伺い、小手先のハックという甘美な従属に耽溺するマーケターたち。彼らが紡ぐ、もう一つの「O(Optimization)の物語」。
わたしたちは、そんな不誠実な従属関係から、もう自由になりたいなと思うのです。
そして、AIという巨大なテクノロジーを前にして、最も誠実な言葉の再定義を試みたい。
そもそも「最適化(Optimization)」とは何なのか?
私たちは、当たり前のように「SEO(検索エンジン最適化)」や「LLMO(LLM最適化)」という言葉を使っています。
しかし、そもそも「最適化(Optimization)」とは何を指す言葉なのでしょうか。
本来、最適化(Optimization)とは「自らコントロール(制御)できるシステム」に対して行うものです。
かつてのGoogle検索に対して「最適化」というアプローチが辛うじて成立した理由は、Googleの検索アルゴリズムが(完全ではないにせよ)ある程度の明確な規則性を持っていたからです。 「クロールされ、インデックスされ、タイトルや見出しが評価され、被リンクが集まれば、評価される」 システムがブラックボックスであっても、この「入力と出力」の規則性から経験則を積み上げることができたからこそ、私たちはサイトを「最適化」することができました。
しかし、LLM(大規模言語モデル)はまったく異なります。
ChatGPTやGemini、ClaudeといったAIの内部は、学習データ、Web検索システム、独自の推論プロセス、そして頻繁に行われるモデル更新が複雑極まりなく絡み合うカオスです。 「ここを数文字いじれば、確実にAIに推薦(引用)される」などというマジックのようなレバーは、この世界のどこにも存在しません。
攻略不可能なブラックボックスを前にして、平然と「AIを最適化します」と言ってのけるのは、ただの言葉の矛盾(あるいはペテン)でしかありません。
だからこそ、私たちは「LLM_O」という言葉の「O」を、嘘臭い「Optimization(最適化)」から静かに剥がし、まったく異なる「2つのO」へと再定義してみようと思います。
1つ目の"O":LLM Organization(情報の組織化)
私たちが最初に行う実務。それは、AIの機嫌を取るための「最適化(ハック)」ではなく、「自社の情報の組織化(Organization)」です。
これはAIを攻略するのではなく、「AIが理解しやすい情報環境を整えるインフォメーション・デザイン(情報設計)」に他なりません。
AIがわたしたちの会社を調べてくれたり、ユーザーに推薦してくれたりする際、自社サイトが言葉の揺らぎにあふれ、構造化もされていない、曖昧な「チラシやパンフレット」のままであれば、AIは簡単に事実を誤認(ハルシネーション)します。
だからこそ、自社サイトの裏側(コード層)に、Schema.orgやJSON-LDといった世界標準の構造化データを厳格に流し込む。
「私たちは何者であるか(Fact)」と「何者ではないか(Not)」の境界線を、極めてクリアな論理構造として整理・体系化する。
AIに気に入られようと媚びるのを止め、自社の情報資産を美しく、論理的に整えること(Organization)。 それは、まだ、ビジュアルエディターもなにもなかった頃、極めてシンプルなテキストエディターで、あの美しい数式の証明を HTMLコードで手打ちしてくれた、かつての職人(コーダー)への敬意を、もう一度テクノロジーの基盤に取り戻す行為でもあるのです。
2つ目の"O":LLM Oversight(AI空間のガバナンス)
もう1つの実務は、「AI空間での自社ブランドの監視・統治(Oversight)」です。
「最適化」を捨てたわたしたちは、AIを制圧しようとは思いません。その代わりに、AIの推論空間(脳内)で、自社のブランドが今、どう語られているかを注意深く観測し、軌道修正し続けるガバナンス(統治)に注力します。
主要なAIサービス(ChatGPT、Perplexity、Geminiなど)に、真剣な顧客が投げかけるであろう問いを実際に投げ、自社がどう要約され、誰と比較されているかを定期的に監査する。
もしそこに誤解や、古いノイズによるハルシネーション(誤認)が発見されれば、自社の「登記(構造化データ)」や公式サイトの発信をすぐさまチューニングし、AIの認識を誠実に上書きしていく。
これらは「1回の施策で終わり」のキャンペーンではありません。企業がこれから何十年もAI社会で実存を守り抜くための、地味で、しかし最も重要で誠実な「情報ガバナンスの実務」なのです。
あなたはこれから、どちらの「O」を選びますか?
言葉の定義を曖昧にしたまま、「AIを攻略する新しいGEO対策です! AIOです!」と意気揚々と語る、ジャーゴンまみれのおこがましい「最適化(Optimization)」の物語に加担し続けるか。
それとも、AIという巨大な新インフラの存在を謙虚に認め、 「自社の事実(実存)を美しく整え、AI空間での自社の評判を守る」ための、静かで誠実な「情報の組織化(Organization)と監視(Oversight)」に取り組むか。
実質の集客(トラフィック)が期待できなくなったこれからの時代、Webサイトに投じる予算の意味を、もう一度冷徹に見つめ直してみてはいかがでしょうか。
経営者であるあなたに、最後にシンプルに問いかけたいと思います。
「あなたはこれから、どちらの『O』に、大切なお金と時間を使い続けますか?」
