#557 巨大代理店が認めた「集客モデルの終焉」

Sep 09, 2026By habitus
habitus

The End of the Traffic Game

巨大代理店が認めた「集客モデルの終焉」
— AI時代に欠け落ちた、公式Webサイトの情報設計

先日、日本の広告・マーケティング界の頂点に立つ巨大代理店が運営するメディア(※1)にて、非常に興味深い論考が公開されました。

『「届ける」から「選ばれる」へ。AI時代のメディア戦略とは?』と題されたその記事は、長年現場でメディアプランニング(広告をどう届けるかの設計)を担ってきた現役プランナーによる、切実な危機感と構造変化の指摘から始まっています。

記事の中で著者は、これまで十数年信じ込んできた「どのメディアで、どのターゲットに情報を届けるか」という前提そのものが、音を立てて崩れ去ったと語り、次の決定的な変化を挙げています。

・AIという「門番」の出現: 企業の発信は、まずユーザーのAIエージェントという門番によって審査され、そこで選ばれたものだけが人間に届くようになる。

・「理解系コンテンツ」のAI代替: 検索エンジン向けのSEO記事や比較サイトといった「理解を促す施策」は、すべてAIが読み込んで要約してしまうため、人間が直接訪れる場所としての意味を失う。

・「届ける設計」から「選ばれる設計」へ: どれだけ広告枠を買って大声でメッセージを投げかけたかではなく、AIと人間の双方から「純粋に想起(真っ先に思い出される)」されるブランドになれるかが問われる。

かつて「集客のためのチラシ」としてWebサイトを捉え、アクセス数やコンバージョンといった数字の獲得に狂奔していたデジタルマーケティングの手法が、完全に手詰まりを迎えたこと。それを、業界の巨頭が公式に認めた瞬間と言えます。

私たちがこれまで数年にわたり訴え続けてきた「外側から人を力づくで集める時代の終わり」という主張に、ようやく時代と大手が追いついてきたのだと、深い感慨を覚えずにはいられません。

変われない習性と、言葉の軽さへのため息

論考の現状認識は、実に真摯で真っ当なものです。しかし、読み進める中で、思わずため息が漏れてしまった箇所がありました。

著者はAI時代の生活者を捉えるカギとして、「メンタルパフォーマンス」という概念を持ち出し、それを略して「メンパ」と呼んでいるのです。

情報流通の根底が覆るような歴史的なパラダイムシフト(構造転換)を語りながら、その舌の根も乾かぬうちに、いかにも業界受けしそうなアルファベットやカタカナの省略語(トレンドワード)をひねり出そうとする。
時代が変わっても、消費されやすいキャッチーな言葉を作って新しい市場(予算)を開拓しようとする広告業界の「抜けない習性」を見ると、少しばかりの冷笑を禁じ得ません。
私たちは、そうした表面的な言葉遊びから抜け出すために、新しい時代と向き合っているはずなのですから。

メガ代理店の限界と、彼らが語らない「穴」

さて、気を取り直して論考の続きを見てみましょう。
彼らが提示した「AI時代の情報流通構造」の洞察は鋭いものですが、「解決策」の段になると、そこには広告代理店という業態ゆえの明確な限界と境界線が浮かび上がってきます。

彼らが到達した結論は、「新聞・雑誌の広告特集」や「テレビなどのコンテンツタイアップ」といった、信頼性の高い第三者メディアを通じた「外側の情報資産づくり」でした。

もちろん、外部の権威あるメディアで質の高い評判を作ることは、AIが学習する際の重要なシグナルとして有効に機能するでしょう。しかし、ここに決定的な「穴」が残されています。

どれだけ外部の高級メディアやタイアップ広告で良い評判(外側の話題)を作ったとしても、AIが「この会社は具体的に何を提供し、何を提供していないのか」の最終確認のためにやってくる「本陣(自社公式Webサイト)」の裏側がノーガードのまま放置されていれば、すべては水泡に帰すということです。

AI(大規模言語モデル)は、外部の噂話だけで回答を完結させません。
最終的には必ず、企業の一次情報源である公式Webサイトへ答え合わせ(カンニング)にやってきます。そのとき、サイトの裏側に機械が誤読しようのない冷徹な「公式データ(Fact & Not)」が施工されていなければ、AIは容易に認識の平坦化を起こし、同業他社と混同して不正確な情報を回答に混ぜ込んでしまいます。

外部の宣伝をどれだけ大手代理店が華やかに飾ろうとも、本陣の裏側に揺るぎないデータ構造を打ち込む「デジタル登記」が抜けていては、建物は決して完成しません。

巨大代理店が『集客モデルの崩壊』を認めたのは真実です。
しかし、彼らの解決策が最終的に『外部の広告特集を買いましょう』になるのは、彼らが外部メディアの枠を売るビジネスである以上、どうしようもないポジショントークなのです。

「広告枠を買う人」から、「本陣を登記する設計者」へ

巨大代理店の論考は、最後のまとめとしてこう結ばれています。

「これからのメディアプランナーに求められる役割は、『広告枠を買う人』ではなく、『ブランドがAI時代に選ばれ続けるための情報設計者』へと進化していくことになるでしょう。」

この言葉には全面的に同意します。 そして、まさにハビタスがこれまでブレずに提供してきたものこそが、この「情報設計(インフォメーション・アーキテクチャ)」の実装そのものなのです。

私たちは、不特定多数に大声を張り上げる広告代理店でもなければ、表面的なデザインだけを整えて終わるWeb制作会社でもありません。

外部メディアでどれだけ話題を作ろうとも、最後にAIが確認に来る自社サイトの裏側に、世界標準の構造化データ(機械が読み取れる論理的な言葉)を冷徹に施工すること。 「自社は何者であり、何ではないのか」という境界線を強固に登記すること。裏側に冷徹な「論理」を宿らせることで、表側のWebサイトを検索エンジンの顔色伺いから解放し、人間の心を揺さぶる美しい「情緒」を取り戻すこと。

大手が外側の話題化に巨額の予算を投じる中、私たちは中小企業の足元である自社サイトの裏側に、静かに、そして完璧な「デジタル登記」を施工し続けます。 外側の華やかな広告合戦の裏側で、動かぬ本陣を組み上げる。これこそが、AI時代における唯一無二の情報設計者の仕事だと確信しています。

----------------------------------------------------------------------------------------------------------

※1 参考記事:『「届ける」から「選ばれる」へ。AI時代のメディア戦略とは?』(電通報) https://dentsu-ho.com/articles/9835