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#83 第8回 Webマーケティングの「新しい波」:流行に流されない見極め方

Jun 05, 2025By habitus
habitus
中小企業のためのコンテンツ戦略入門
Webマーケティングの落とし穴 - コンテンツ戦略という視点


1. はじめに:Webの世界の「新しい波」と、あなたの本音

中小企業の皆さん、「Webマーケティングのトレンドはこれだ!」「最新ツールで効率化!」なんて言葉を聞くと、どう感じますか?
正直なところ、「また新しい横文字か…」「結局、何がどう変わるんだ?」と、少しうんざりしていませんか?
Webの仕事をしている私たちでさえ、時にはそう感じてしまいます。皆さんも同じではないでしょうか。またどこかの誰かがネタにしているな…とか思ったりして、しかもこういう仕事しているものですから、知っていないといけないのではないか?と焦らされたり…ちょっと嫌になります。みなさんも同じですよね。

そんなわけなのですが、「トレンド」という言葉には、新しいものへの焦りや、「ついていかねば」というプレッシャーがつきまとってきます。若い、つるっとした顔の営業マンが持ってくるITツールの話に辟易しつつも、実は「ひと知れず理解しておきたい」「若者に聞かずに、こっそり知りたい」という気持ちも、きっとあるはずです(自分に正直な人はそうですよね)。
中高年のマネージャーさん!あなたのことです。

タイトルに「流行に流されない見極め方」とかえらっそうに書きましたけど、そもそも流された方がいいとか、流されることが仕事と思っている方もいっぱいいるでしょう。なんたってトレンドとか時代の波に乗るという方がビジネスにとっては大切だ!という根強い信仰(事実?)があります。「新しい」(といわれる)ものでないとお金が出ないというのも、まあよくあることです。

この連載で伝えたいのは、そんな「トレンド」という言葉に隠されたあなたの複雑?な思いに寄り添いながら、表面的な流行に惑わされず、Webマーケティングの「落とし穴」を避けるための「おおよその見極め方」です。
こんな時代ですから、これがいい、これはダメと完璧に見極めることはおそらくできないですけど、それとは少し視点を変えて…。
結論的には、新しい技術や概念も、結局は「道具」。どう使うか、何のために使うか、そこがすべてなのです。
しかし、「道具」ってよく言われますけど、なんだかわかっていない人が自分を慰めるためにも言っている気もします(所詮、道具ねってなニュアンスで)が、使ってこその「道具」なので、「使える道具」としての視点をもってお伝えしようと思います。

比較的長い期間、デジタルの世界で仕事をしてきているのですが、この間どれだけのトレンドがまことしやかに宣伝され、みんなが飛びついて大騒ぎして、そして消えていったか?いくつも実際にそれを見てきています。
一定の成果を出したものもあったとは思うのですが、そこにどれほどのお金が消えたか?と考えるとちょっと複雑な気持ちになります。私だってお客様にそれを勧めたこともあるわけですから複雑な気持ちにもなろうものです。

2. 「生成AI」の誘惑:恐れず使おう、でも見極める目を!

「AIが何でもやってくれる」という話を聞くと、「これでコンテンツ作りが楽になる!」と期待する反面、「結局よくわからない」「ビジネスに本当に使えるのか?」と、不安や疑念も抱くかもしれません。またか…と近づきたくない人もいるでしょう。
確かに、AIはもう「万能ではない」なんていう陳腐な言葉で片付けられるようなものではなくなってきているようです。

AIは、文章作成、画像生成、アイデア出しなど、コンテンツ制作を強力にサポートしてくれるツールです。
まるで、あなたのアイデアを瞬時に何パターンも形にしてくれる、優秀なアシスタントのように感じることもあります。
そんなわけですので、優秀な秘書がいるというくらいのつもりで、あまり恐れる必要はないと思います(それよりなんだかわからない嫌悪感や理解する面倒くささが先立っているのかもしれませんが…)。むしろ、積極的に使ってみてはいかがでしょう?

でも、ここが肝心。AIはあくまで「道具」だと思うことです。実際そうだし。

AIに「何をさせるか」が重要
AIに「いい感じに記事を書いて」と丸投げしてもなかなか思うようにはいきません。なにかしら返してきてはくれますけど…。
企業としての理念、サービスに込めた情熱、顧客への深い洞察といった「魂みたいなもの」(ちょっと大袈裟です)は宿ってはいない。まあ、これ自体が陳腐な言い方で、「人工知能」という日本語が示している「人間の知能」とは何か?と考え出すと分析哲学の領域のやっかいな問題が広がっている訳なのですけど、このあたりは還元不可能ななにかは確かにあるのです(将来どうなるかはわかりませんけど…)。
そしてその「魂みたいなもの」、それはあなたにしか書けない部分です。
AIには、サポートしてもらいましょう。面倒くさい部分ね。情報収集、文章のたたき台、キーワードの提案、校正など、効率化できる部分などなど「ガンガン」任せましょう。

最終判断は「あなた」
AIが生成する情報には、事実と異なることや、偏った表現が含まれる可能性もゼロではありません。結構あることは経験済みです。
「ホントに調べたんかい!」とヒトだったらうっかり言ってしまいそうなこともあるわけです。
最終的なコンテンツの品質、信頼性、そして企業のメッセージとしての責任は、あなたが持つべきです。そりゃまあ当然ですよね。部下の仕事の責任をもつようなものです。そのくらいの感じで。
「なんでもAIがやってくれる」というセールスに踊らされたり、「やっぱりAIじゃダメ、人がやらなきゃ」という極端な意見に同調したりせず、道具は使いよう、という冷静な視点を持つことが肝心です。

3. 「パーソナライズ」の幻想と現実:ツールより「誰のためか」

「お客様一人ひとりに最適な情報を届けます!」という「パーソナライズ」は、Webマーケティングの最新トレンドとして、高価なMA(マーケティングオートメーション)ツールと共に語られることが多いです。確かに、最新のMAツールは、顧客の行動を詳細に分析し、膨大な数のステップメールを自動で配信するなど、驚くべきことができます。あまりに高度でこんがらがっちゃいそうなくらいです。
しかし、人的リソースが限られる中小企業にとって、事前に何百ものメールコンテンツを用意したり、複雑なシナリオを構築したりするのは、現実的に「無理」ではないでしょうか?(決してMAツールを否定しているわけではないです)
そこに生成AIがコンテンツ制作の手間を軽減するという話が組み合わさる(AIエージェントが…とか言い出す人いますけど…)と、「MAツールとAIで完全自動のマーケティングが実現する!」という幻想が生まれてしまいます。
(すでにそれに近いものは存在しています。概ね完成というのは時間の問題かもしれません。それで納得できれば…ですが)

ここが、Webマーケティングにおける大きな「落とし穴」です。

問題の本質は、ツールや自動化の有無ではないのです。それは、「コンテンツ不足」と「目的意識の欠如」です。いくら優れたMAツールがあっても、顧客に響くコンテンツがなければ、ただの自動メッセージ送信機になってしまいます。
今や世界的コンテンツの宝庫であるハリウッドですらコンテンツ不足なのか?と思います。莫大な予算を投じても、なかなかヒット作は出ない。では、日本のテレビ番組はどうでしょう?同様に、あるいはそれ以上に厳しい状況だと感じている方も多いのではないでしょうか。そうなると、目的もなにもなく、とにかく機械的?に生産することに必死になってしまう。MAツールが自動メッセージ送信機になるとはそういう感じです。

中小企業がパーソナライズに取り組むべきは、ツールに頼り切るのではなく、「目の前のお客様が何を求めているのか?」という問いに真摯に向き合うことです。例えば、Webサイトのブログ記事を「初心者向け」「専門家向け」「悩み別」に分類し、顧客が興味を持ったカテゴリーに応じて、関連コンテンツへのリンクを提示する。これだけでも、立派なパーソナライズの第一歩です。

Webに関わる人々が、面倒なことを避けたい、これまでと違う仕事をしたくない、会社でミスを指摘されたくない、という無意識の動機に流されて、「自動化」や「ツール導入」に飛びつくのはちょっとキケンなように思います。
まずは、あなたの会社が「誰のために、どのような情報を、なぜ提供するのか」というコンテンツ戦略の軸をしっかりと持ち、その上で、パーソナライズをどう「手作業で」(全部じゃなくていいです。という心の余裕を持って)実現できるかを考えるべきです。

4. 「動画コンテンツ」の罠:安易な量産は「顧客をバカにする」行為?

「動画は今や必須!」「スマホで簡単に撮れる!」という言葉を信じて、安易に動画コンテンツに手を出していませんか?
YouTubeなどでプロレベルのハイクオリティな映像を見慣れている今の顧客は、中途半端な動画を見ると、かえって「この会社、クオリティ低いな…」とネガティブな印象を抱いてしまうリスクがあります。かつて企業が、プロの映像クリエイターが手掛けたようなクオリティの映像を求め、下手なYouTuberのようなクオリティの映像を平気で掲載するようなことはありませんでした。これは、ある意味「顧客をなめている」行為ではなんじゃないか?と思ってしまいます。そして、そのような低品質な動画コンテンツが溢れているせいで、顧客自身も「動画ってこんなものか」と、クオリティを気にしなくなってしまっているように見えます。企業のテレビCMが映像クリエイティブのクオリティを引っ張っていた時代があったのですが、そういうものを知らない世代が多くなってきているのはちょっと不幸なことですし、モノが売れない時代にますます差別化できなくなっている。それは景気がよかった時代の話だよとおっしゃるかもしれないのですが、お金を使えばいいというものではないというのはこれまで書いてきたとおりです。
むしろ、コンテンツ戦略のキモは、「会社としての理念や価値観を、品質を担保して伝えること」にあります。
昨今、企業の「ブランディング」施策という言葉も聞きますが、これは上記のような事情の裏返しのような気がしてなりません。

目的を明確に
「とりあえず動画を作ってみる(流行っているみたいだし)」のではなく、こちらも同様に「この動画で何を伝えたいのか」「誰に見てほしいのか」「見た人にどうなってほしいのか」という目的を明確にしましょう。

品質への意識
スマホで手軽に撮れるようになったとはいえ(映画もスマホで撮られる時代です)、企業の顔として見せる以上、映像のクオリティ、音声のクリアさ、編集のテンポなど、最低限の品質は確保すべきです。外部に依頼すればそれなりの費用がかかりますが、それは「企業の信頼」を守るための投資だと考えてもいいでしょう。

伝えるべき「情熱」
製品の使い方、会社の雰囲気、お客様の声など、中小企業だからこそ伝えられる「リアルな情熱」や「人間味」を、動画で表現することには大きな価値があります。「情熱」なんて青臭い言葉を使いましたが、まんざらでもないのです。中小企業の方々は表に出さないのかもしれないですが、大企業と違って、強い情熱をもって仕事にとりくんでいるではありませんか。
つまらないものを量産して、顧客の期待値を下げるべきではないと言っておきましょう。

5. 「モバイルファースト」の功罪:本当に「スマホだけでいい」のか?

「ウチのホームページはどうでもいいんです。スマホでしかアクセスしないので…」
Web制作に携わっていると、そんな言葉を耳にすることがあります。他にも、「ホームページはどうでもいいんです。オンラインショップだけあれば…」とか「最近はInstagramだけ。ホームページなんか誰も見ないでしょ」という方もいらっしゃいますが、それらはすべて「Webサイト」の一部であり、切り離して考えることはできません。SNSも同様です。このあたりの混乱が、コンテンツ戦略の理解を妨げる原因の一つになっていると感じます。
ブームにスグ飛びつく日本人らしいというか、そのブームが「新しいもの」として提示されるので、違うものだと切り離して理解してしまうのもある程度仕方のないことかもしれない。スマホなのか?ケータイなのか?はたまた電話なのか?いや、どれが上位概念なのか?ちょっと笑ってしまいますが、考えてしまいそうです。

確かに、Googleはモバイルファーストインデックスを推進しており、スマートフォンでの表示がSEO評価に直結します。レスポンシブデザイン(どのデバイスでも見やすく表示される設計)は、もはや「当たり前」の必須要件です。

しかし、「スマホファースト」を突き詰めるあまり、見過ごされがちな「落とし穴」もあります。
(※スマホなのかスマフォなのか?ちょっと考えちゃいました…)

デザインと表現の制約
小さな画面に最適化するため、凝ったデザインや複雑な情報構造が難しくなる傾向があります。昨今のデザイントレンドもレスポンシブデザインが大きく影響しています。Webデザイナーの苦労を脇に置いてしまって、クリエイティブから技術オペレータ化させてしまってもいるのです。ある意味、デザインするというクリエイティブな活動ではなく、決まった型にはめる作業になりつつあります。Webの特性上ある程度は致し方ないものの、企業の個性や特性を際立たせるデザインや表現は難しくなってしまっている気がします。

参照:『デザインにできないこと』シルビオ・ロルッソ著


コンテンツの「短文化」の弊害
「スマホで読むから短く」という発想で、伝えるべき重要な情報まで削ぎ落とされてしまうことがあります。これにより、企業が本当に伝えたいメッセージが曖昧になったり、写真や動画のクオリティが「小さい画面だからこの程度でいいか」と軽視されたりする原因にもなりかねません。
残念ながら、Webクリエイターの「プロ」としての品質基準が、かつての広報宣伝部が持っていたような厳しい目線に及ばない現状も散見されます。そして、それは発注側が「その程度でいいや」という見極める目を持てなくなっていることの裏返しでもあるかもしれません。同時にクリエータの方も「この程度でいいか…」となりがちです。

私たちは、単に「スマホで表示される」だけでなく、PCの大きな画面で閲覧された時にも企業のメッセージがしっかりと伝わる、「ちゃんと伝えるWebサイト」「細部にもこだわったWebサイト」を優先すべきだと考えています。Webサイトは、会社の「顔」であり「営業マン」である以上、どのようなデバイスで見られても、企業の品質と理念が伝わるものであるべきだと考えると同時に、クリエイティブの可能性をもっと引き出したいと考えます。

6. まとめ:道具は使いよう、Webマーケティングの軸は「コンテンツ戦略」

Webマーケティングを取り巻く最新トレンドやテクノロジーは、一見すると難解で、ついていくのが大変に感じるかもしれません。しかし、重要なのは、それらが「何のための道具」であり、皆さんの「コンテンツ戦略の軸」をどう強化できるか、という視点です。

AI、パーソナライズ、動画、モバイル対応…これらはすべて、お客様に価値を届け、ビジネス目標を達成するための手段に過ぎません。
実際に最先端のテクノロジーを開発しているような人たちは、そのことをよく理解しているのです。なにもしなくてよくなるとは思っていない。むしろ、よりクリエイティブで、仕事や趣味にも役立つ、便利になると思って日々開発に没頭しているのです。やはり「これは何であるか?」「どうすればよいのか?」と考えることは辞めることができない。常に考えることは辞めてはいけないのです。
Webに関して言えば、小手先のテクニックや流行に踊らされず、「誰に何を伝えたいのか」というコンテンツ戦略の根幹をぶらさないこと。それが、変化の激しいWebの世界で、皆さんのWebマーケティングを成功させるための唯一の道筋だと考えます。

次の記事では、これまでの連載で解説してきたコンテンツ戦略を具体的に実践し、成功に導くための「小さな一歩」に焦点を当てて、実践への具体的なヒントをお届けします。

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【中小企業のためのコンテンツ戦略入門】


第1回 中小企業が「コンテンツ戦略」で勝つ! :DX時代の新しい競争ルール


第2回 「コンテンツ戦略」の基本をマスターしよう :Webサイトをビジネスに活用するための考え方


第3回 「魅力的なコンテンツ」で顧客を惹きつける:Webサイト訪問者をファンに変える方法


第4回 「戦略的コンテンツ設計」で成果を最大化:問い合わせを増やし、売上につなげる


第5回 「コンテンツの質」を高める:編集・制作・管理のノウハウ


第6回 「データ分析」でWebサイトを改善:アクセス状況を把握し、効果を測定する


第7回 「チームで作る」コンテンツ戦略:上手なチームの作り方あるいは愉しいチームにする方法

第8回 Webマーケティングの「新しい波」:流行に流されない見極め方

第9回 実践編「小さな一歩」から始めるコンテンツ戦略:今日からできること、忘れてはいけないこと